前回記事の最後に、マッサージや鍼灸の広告には病院よりも厳しい法規制があると書きましたが、今回はその話題を。
マッサージ、鍼灸、柔整の広告は法によって規制されている
鍼灸院やマッサージ院の広告に関しては、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(通称あはき法)によって規制されています。また柔整の場合は柔道整復師法があります。
あはき法に関して言えば、定められたのは昭和22年。なんと70年前のものだというのに、その中の広告の規制に関しては、ほとんど変わっていないというのが驚きです。
何が驚きって、具体的な内容を見ていただくのが早いですね。
広告に掲載してもよい内容(あはき法より)
□ 施術者である旨並びに施術者の氏名及び住所
□ 第1条に規定する業務の種類
□ 施術所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項
□ 施術日又は施術時間
□ その他厚生労働大臣が指定する事項(※)※【広告し得る事項】
・ もみりょうじ
・ やいと、えつ
・ 小児鍼(はり)
・ 法第九条の二第一項前段の規定による届出をした旨(平成28年6月29日追加)
・ 医療保険療養費支給申請ができる旨
(脱臼又は骨折の患部の施術に係る申請については医師の同意が必要な旨を明示する場合に限る。)
・ 予約に基づく施術の実施
・ 休日又は夜間における施術の実施
・ 出張による施術の実施
・ 駐車設備に関する事項
項目数だけ見ると結構ありそうにも見えますが、よくよく見ると、これだけなの?!という感じ。だって、肩こり、腰痛などの症状も施術料金も広告NGなんですよ。柔整もほぼ同じような感じです。
費用対効果を考え、広告しないという判断も
看板も広告物ですので、ここにある事項以外を書いてはダメなんです。看板は院名だけでも無いと困りますから作りますが、新聞広告やチラシなどは、これだけの内容では集客や他との差別化は難しいように思えます。
歯医者さんであれば「新しい歯医者がオープンするよ~」と告知すれば、患者さんは歯のトラブルがあった際の候補として記憶して貰えそうですし、他の病院でも「○○科」とあれば、どんな時にそこに行くべきかは認知されています。
それが、例えば鍼灸ですと、まず鍼灸で何をしてくれるのか?というところから知られていない場合も多く、鍼灸院がオープンしたと聞いても、他人事として聞き流されがちです。
WHO(世界保健機構)は鍼灸の適応症として多くの疾患を挙げています。また、私の周りで聞くだけでも、アトピー、リウマチ、パーキンソン病、不妊症、逆子などなど、鍼灸が有効な疾患は多くありますが、こういったことが知らせたいのに、出来ないというのが悩みどころです。
女性が鍼に関心があるみたい。と聞いて広告しようにも、アンチエイジングとか今流行りの「美容鍼」だって、広告には載せられません。
となると、費用をかけて広告しても、見合わないということになってしまいます。
マッサージや柔整も同様かと思います。
そして、医療法と同様に「ホームページ」は広告とはみなされていないので、ネット上には多くの情報があるわけですが、こちらは無法地帯というか、やりすぎでは?と思われるものも見られます。
無資格の方が優遇される理不尽
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔整師になるには国家資格が必要であり、その施術や広告などは法によって規制があります。
話がちょっと逸れますが、よく鍼灸師と言いますが、はり師ときゅう師は別の資格です。同時に受験することができますが、両方に合格して鍼灸師となることができます。もし、はりかきゅうの片方しか受からなければ、当然ながらそちらしか施術はできません。不合格だった方だけでよいのですが、翌年以降に再受験して合格しないと鍼灸師となることは出来ないのです。
話を戻して、先に挙げた国家資格に当てはまらないもの、整体やアロマ、気功などは、民間の資格だったり、無資格でもできるものがあり、それらは医療法やあはき法の規制を受けません。
どういうことかというと、薬事法など一般的な規制はありますが、症状や施術料金、施術者の経歴などをチラシや看板、雑誌広告などに掲載することができます。
決して優遇されているわけではありませんが、ビジネスとしてみると有利ですよね。
ただ「マッサージ」という文言は、あん摩マツサージ指圧師の資格が無いと使用できませんし「治療」と言ってはいけません。
○○式マッサージとか、看板やチラシをよく見ます。やっていることが医療行為でない=人体に影響を与えない慰安、リラクゼーションであれば、施術自体は問題ありませんが「マッサージ」と言ってしまうと、その資格がなければ違法なんです。
そういう視点で見てみると、違法な広告が溢れていることに気付きます。そして同時に、大手の業者は「マッサージ」など問題となるようなワードを使っていないことにも気付くと思います。マッサージと言わなくても、ほぐし、トリートメントというようなワードや、施術の写真などがあれば、利用者には十分伝わりますよね。
法律でこういった無資格の業者(あえてこう言います)を厳しく取り締まり、有資格の施術者を優遇すべきたと思うんですけどね。
違法広告はやったもの勝ち?
しっかり勉強して国家資格を取得した施術者が働く鍼灸マッサージ院の広告は厳しく制限され、簡単な研修を受けたスタッフのリラクゼーションサロンは制限が少ないというのは、どうも納得できませんが、こうなっているのが現状です。
では、鍼灸マッサージ院や柔整院の全てが規則をちゃんと守っているかというと、そうではありません。
看板に「肩こり」「不妊治療」「美容鍼」などと記載しているのを目にすることもありますし、さらに施術料金が書かれたチラシなども目にすることもありますが、それらは違法です。あはき法は知っていても、他がやっているから、告知しないと患者さんが来ないから、仕方なく違法な広告をしている場合も少なくありません。
テレビや新聞、雑誌などの広告は、メディア側でもチェックされるため、違法な広告はまず出すことができません。一方で看板やチラシは、開業時には保健所のチェックがあるかもしれませんが、その後はノーチェックとなる場合がほとんどです。保健所で全てをチェックすることなんてとても出来ないでしょうし、また各地の保健所で広告に関する認識にばらつきがあるという話も聞きます。
取り締まれない、仕方ないので目をつむるというのであれば、ある程度許可してしまえばいいと思うんですけどね。
結果として、余程派手に目立ったり、同業者のチクリなどがなければバレることもなく、やったもん勝ち、正直者が○○を見る、とも言える状態です。
医療法に比べて規制緩和が進んでいない、あはき法や柔道整復師法の広告規制。日本で鍼灸の認知が広まらない原因の一つであり、また良い鍼灸師が育たない負のループを作っているんではないか?という気もします。
鍼灸マッサージ師会のような団体が規制緩和を働きかけたり、業界全体としてのプロモーションを行ったり、あるいは広告規制の中でどのように情報発信、集客を行っていけばよいか治療院や施術者に教えていくことも必要かと思います。
最後に
長々と書きましたが、普段接する情報だけ見ると、国家資格を取得し、真面目に取り組んでいる施術者よりも、違法すれすれの業者の方が魅力的に思えてきます。
ここまで言っておいてなんですが、国家資格を持っていれば一定の勉強をしたということにはなりますが、優れた施術者であるかどうかは分かりません。また、無資格、任意団体の資格でも、しっかりした理論や経験に基づいて結果を出せる施術者もいます。
じゃあどうすればよいのよ?ということなんですが、信用できる情報源をいくつか持っておくことは1つの手段だと思います。
ちょっとした癒し、リラクゼーションというのであればよいですが、身体の不調を治してもらおうという場合は慎重に選ぶことをおススメします。