2025年8月2日、埼玉県行田市で発生したマンホール点検中に作業員4名が死亡する痛ましい事故が発生しました。
亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
見えない“空気”の危険
今回の事故の原因は硫化水素とのこと。
調べてみると、このような事故は以前にも発生しており、近いところでは2025年の3月に秋田県で下水道マンホール内で3名が死亡、硫化水素が原因と見られるとのことです。
下水道や排水処理設備など、密閉された空間では、硫化水素の発生や酸素不足が原因で作業員が命を落とす危険があります。
現在では、硫化水素や酸素濃度を測定できる携帯型のガス検知器も普及しており、作業員が常時身に着けておくべき装備とされています。
点検の際には硫化水素濃度や酸素濃度は計測していると思われますが、それでも事故は起きています。
今回の事故では、落下防止の安全装置や、防護マスクの着用が無かったとのこと。
「大丈夫だろう」という油断もあるのかもしれません。
こうしたニュースを見るたびに思い出されるのが、ある“鳥”の話です。
カナリアが命を救った時代
「Canary in the coal mine(炭鉱のカナリア)」
という英語の表現をご存知でしょうか?
これは「最初に危険を察知する存在」「警告となる前兆」といった意味の慣用句です。金融市場のニュースなどでも危険の前兆を知らせるシグナル、というように使われるのをよく耳にします。
実際に危険を察知するのにカナリアが使われていた歴史があります。
20世紀半ばまで、炭鉱の作業員たちは作業現場にカナリアを連れて行っていたそうです。
カナリアは小さく繊細な呼吸器を持ち、人間よりも先に一酸化炭素やメタンガスなどの有毒ガスの影響を受けやすいため、鳴き止んだり、倒れたりすることで危険を知らせてくれます。
人命を守るために、小さな鳥が最前線で働いていてくれたのです。
※カナリアをできるだけ死なせないようにと、組成装置付きのケージもあったそうです。
詳しくは、カラパイアの記事に記載されています。
かつてカナリアは毒ガス検知器として使用されていた
サリン事件と“十姉妹(じゅうしまつ)”
少し脱線しますが、1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件の直後、警察が上九一色村の教団施設(サティアン)に強制捜査に入る際にも、カナリアを同行させていたそうです。
教団施設にサリンがあったら・・・サリンを検出するような機器があったとしても間に合わなかったのでしょうか。
神経ガスであるサリンへの反応を見るため、捜査員の命を守るため、カナリアに頼ったわけです。
また、不確かな情報ではありますが、上九一色村に行く際には、カナリアよりも多くの十姉妹(じゅうしまつ)も同行したとのこと。
なぜ十姉妹?
カナリアの値段が高いから?
急なことでカナリアが手に入らなかったから?
まあ、そこは重要なことではないですかね。
今なら動物愛護団体が黙っていない?
現代では、動物に危険察知をさせること自体が問題視されるかもしれません。
「そんなことをさせるのは動物がかわいそうだ」「命を道具のように扱っている」と非難されても仕方ない時代です。
現代の技術を活用し、より高精度なガス検知器やセンサー技術が開発・導入し、また、積み上げてきた経験も活かして、人間も動物も守れるような仕組みができると良いですね。
小さな異変を見逃さない感性と準備が命を守る
「炭鉱のカナリア」は過去の話ではなく、現代にも通じる教訓を与えてくれます。
技術だけでなく、経験を踏まえて、ルールや仕組みを構築することも必要です。
身の回りの“小さな異変”に敏感になれる感性や注意力もまた、安全を支える重要な要素です。
今後このような事故が二度と繰り返されないよう、現場で働く全ての人の安全が守られることを願います。